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インターネット社会の即時性にはまだ未熟な部分も [思索の散歩道]

先日、とある音楽業界大手から楽譜のダウンロードサービスを利用した時の話。

私はどうしてもすぐに楽譜が必要になったので、初めてその関係のダウンロードサービスを利用してみた。次の日に知人の結婚式があり、急に演奏依頼があったのだ。もう夜になってからの段階だったので他に打つ手がなかったのだ。練習時間の確保も当然必要である。それでこのダウンロードサービスを利用する中で感じた点が幾つかあるので記しておこうと思う。

  1. 「著作権保護」いう名目の為、買った楽譜はデータなのに「印刷」しかできない。

買った楽譜はダウンロードして入手する。どうにも利用者を信用していないのか「特殊フォーマット扱い」でしかも余計なアプリケーションをダウンロード&インストールしなくてはならないので異様にわずらわしい。印刷アプリでPDFに出力するソフトを持っているが、それを使ってもきちんとした出力が出来ない。純粋に紙にすることしか許可していないのだという。
仮に汎用性の高いフォーマットで開ける楽譜だとしたら、それがインターネット上に大量に流出することを懸念しているのであろう。だから著作権保護云々という流れになるのである。だがこのような仕組みは利用者には迷惑である。そして著作権保護にそれほど寄与しないであろう。迷惑な理由は上述したとおりデータ扱いではないこと。そしてパソコン上で使えないのならば、そうした目的を持った利用者に対して価値が著しく減衰することが挙げられる。
著作権保護に寄与しない可能性があるのは、データ化を防ぐために「紙媒体」だけに絞って出力可能にしてある点を逆手にとって出力した楽譜をスキャナで読み込ませて汎用性の高いフォーマットに変換されたらそれで終わりだからである。仕組み自体に反感を持つ利用者からはそうした動きを助長するような「ルール」にしか見えないのである。このルールに反発する利用者からは、ルールの無意味さを明らかにするために「著作権を侵害する動き」を高めるのではないだろうか。汎用性の高いデータ(PDF等)でのダウンロードを可能にし、データ自体に使用制限を加えるなり、禁止事項としての同意を得るなりさせて利用者モラルを促す方がこうしたサービスは成長するように思う。
以前、音楽業界大手のSonyが著作権保護の意味合いの強い自社フォーマットであるAtrac3にこだわりすぎたために、Apple社をはじめとする同業他社に市場において著しい差をつけられたことが頭をよぎった。(現在SonyはMP3再生に対応するなどして柔軟な姿勢を打ち出した結果、市場でのシェアを回復する傾向にある。)

  2. 楽譜の印刷回数に著しい制限が加えられている。

ダウンロード&インストールさせられるソフトによって、楽譜データは管理される。印刷する時に販売店との認証を自動的に強制され、3回目以降の印刷は認証によって拒否される仕組みだ。私の場合ここでも問題が起きた。ちょうど何らかの原因でプリンタとパソコンとの接続に不具合が起きていたらしく、楽譜の印刷に2度失敗してしまったのである。他のドキュメントが印刷できて楽譜が出来ないのはどういうことかわからなかったが、原因は後ほど説明しよう。
とにかく2回印刷に失敗すると、買った楽譜データは「ゴミ」になるのだ。この意味は次に掲げる問題点と合わせて利用者(特にパソコン初心者やサービス利用初心者)にとって非常にマイナスに働くことになる。

   3. サポート担当窓口と決済業務担当部署の連携不備

今回の記事で一番主張したいのはこの部分である。印刷に失敗した後、私は即座にサポート担当窓口に連絡した。サポート担当窓口は午後9時まで対応している。私が連絡を入れたのは午後7時過ぎくらいだった。話した内容は「印刷回数制限によって印刷が不可になった。プリンタが作動せず買ったデータを取り出せていない。どうしたらいいか」というものである。また、明日に結婚式があって予定変更のため急に楽譜が必要になり、即時性のあるインターネットから楽譜をダウンロードするという選択をしたことも併せて説明した。その対応は不満の残るものであった。窓口の返答は以下の通り。

 ・ 2回印刷に失敗したデータは使えなくなり、それを回復することは不可能。

 ・ 楽譜の入手のためにはもう一回買い直すしかない。

 ・ 決済窓口は平日午後6時までなので、入金確認が出来ないため返金不能。確認は週明けに。

 ・ ダウンロードした楽譜が重複する場合、同料金の違う楽譜データで代替する(返金しない)。

 ・ ウイルスソフトを導入している場合、印刷に失敗するケースがある。


インターネットサービスの即時性を一体なんだと思っているのであろう。販売促進に関してだけは365日24時間体制をとっているのに対して、トラブル発生やサポート業務は即時性とはかけ離れた役所並みの対応。つまり「売ることに熱心で、利用者の正当な利益保護には距離を置く」スタンスと言わざるを得ない。利用者は即時性に価値を見出してサービスを購入しているにも関わらず、トラブル対応は完全に後手後手である。サポート窓口が午後9時まで開いているのに、決済業務窓口は午後6時までしかオープンではないために上記のようなトラブルには結局対応できなくなるのだ。サポートと決済窓口が分かれているにしても、せめて業務時間は統一すべきであろう。利用者がダウンロードしたかどうかすらサポートではわからないという。結果的に全く無意味な押し問答が続いたのである。利用者である私は「即座に楽譜が必要な状況」なのだ。そしてそのためにサポートに連絡を入れているのである。ところがサポートは確認が週明けになると言明。では私は何のためにインターネットを使ってダウンロードするという選択をしたのかという問題になるのは必然である。また、今時のパソコンの多くはウイルスソフトを導入しているのが当然である。それが妨げになって印刷できないというのであれば不便この上ない。結局データをデータとして扱えないという基本方針そのものが利用者の利便性を損なっていることに気付くべきであろう。
結局私はどうしてもすぐに楽譜が必要であるという立場のため、同じ曲の楽譜をもう一度購入するという選択をせざるを得なかった。週が明けて決済業務担当窓口から連絡があった。同一曲の重複ダウンロードを確認できたので、同料金の何か他のお好みの曲の楽譜をメールで送信するという。私は何も他の曲の楽譜など欲しくはない。馬鹿馬鹿しいことだが、渋々違う曲を選択し結局返金対応はないという結果となった。サポート窓口と決済窓口が綿密な連携体制を組めていれば、トラブルの電話の際にすぐ私宛に楽譜データをメールで送信することが出来たはずである。

  • インターネット販促はサポートの即時性を両立していなければ、真に利用者の利便性を高めることにはならない。

 今回の件を通して感じたのは、インターネットによる販促は「決済業務と綿密な連携、もしくは一体化したサポート体制が必要不可欠である」ということである。サービスの即時性の実現に大きく寄与したと見られがちのインターネットだが、トラブルに対する姿勢が圧倒的に遅くまだまだ未成熟だ。インターネットで物品を購入するのはクリック一つ、トラブル対応は数日遅れというのでは全く釣り合っていないであろう。サポート窓口と決済業務窓口は最低でも同じ時間まで営業しておかねば役に立たない。今後インターネットを使って販促している会社の質を見極める際には、販売スタンスのみならずサポートの質がどのようなものであるかが問われる時代が到来することを感じてやまない。


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ブル

インターネットの爆発的普及・技術の進歩に、
制度やモラルなどがついていけず、取り残されてるように感じています。
常に、後手後手。
その後手っぷりも、周回遅れにされてるのに、
同一周回で争そってるかのようなジタバタぷりに感じます。

もはや、上からの取り締まりで、どうこうできる問題ではないと考えます。
自警団や隣組じゃないですが、
利用者どうしが互いに監視するくらいの思い切った対策をとらないと無理でしょう。
この問題はむずかしすぎますね。

サポートの良し悪しが、結果的に購買につながることに気付いていない企業が、
まだまだいるということでしょうかね。

すみません、ついつい長々と書いてしまいました。
参明学士さんの文章に感化されてしまいました。
by ブル (2005-09-07 14:08) 

on_your_mark

同じ著作権でも、着メロは1ヶ月DLし放題だったりするのに、
おかしなもんですね。
楽譜を印刷しなきゃならない必然性も、いまいち・・・。
だって今、電子楽譜(って言い方も何ですね)ってあるでしょ?

音楽業界って、時流に乗らなきゃという焦りばかりで、
本当にユーザが求めていることを、いつの時代も分かってない気がします。
by on_your_mark (2005-09-07 14:13) 

銀鏡反応

時流に乗ることばかりを考え過ぎて、ユーザーの本当の声を聞いていない。
そんな業界が音楽シーンには多いような気がします。
著作権の問題もなんだかユーザー不在で物事が進んでいってしまっている感じがするのです。
音楽作品は、その作家の手許を離れてしまえば、みんなのものになる、と何故、業界の人間どもは考えられないのだろうか。著作権に対する考えも、これからはユーザーの利便性の立場から、抜本的に見直す必要があるのではないでしょうか。
by 銀鏡反応 (2005-09-07 18:10) 

kyao

相変わらずの体質、と言ってしまえばそれまでなのですが。
つまるところ、自分たちの体勢の不備を棚に上げて、自分たちの正当性ばかりを主張するという、メーカーのいちばんイヤらしい部分ばかりが露呈したのではないかと。言葉を換えれば「どんなバグでも、マニュアルに記述すれば、それは仕様である」ということを体現しただけですね。
演奏者や指揮者が替われば、同じコードであってもまったく違って聞こえます。収録された音源などならともかく、譜面に著作権が絡むなど、時代錯誤のような気がします。
by kyao (2005-09-07 19:51) 

参明学士/PlaAri

ブルさん、確実に言えることはネット社会にルールが追いついていないということですよね。逆に言えば従えるルールを早めに作ったところが勝ち組になっています。Apple社でも楽天でもライブドアでも。人を不当に規制した結果で利益を出そうとする発想自体が誤りだと思っています。特に創作活動に絡む内容は制限すればするほど反発も大きく、「買っているのに関わらず、買ったものが自由にならない」というのはあまりにも筋が通りませんよね。発想そのものの転換が求められているように感じます。

switchさん、今は紙媒体の楽譜をデータとして読み込ませるソフトすら出ている現状です。それなのにこの会社は「紙でしか出せません」などというわけです。利用者の利便性なんてそっちのけ。それが逆にルール違反を助長することにも気付いていないということでしょうね。

銀鏡反応さん、何事も問題になるのはユーザー不在の中での取り決めごとなんですよね。ユーザーなくば市場は成り立たないという原則すら忘却しかかっていると思います。ニーズでは足元を見て、デマンドには応えない。こんな企業ばかりではこの先も期待できません。ソフトバンクは「高すぎる各社の携帯料金を引き下げるための参入、ADSLを柱としてインターネット料金を引き下げる」というユーザーの視点からの戦略を明確にしています。結果としてそれが商売として成立することを予見しているかのようです。もちろん赤字続きではどうにもなりませんが、そこをどうにかするあたりが先進企業なんだと思いますよね。

kyaoさん、そうなんです。相変わらずの体質と言えるでしょうね。不便極まりないんですよ。サービスを享受するのに何でこんなに不便なの?と。金まで払って不満を買ってどうするんだろう?みたいに感じました。
システム自体にも不満はありますが、今回はとにかくサポートの即時性のなさに怒りの声を挙げてみました。
by 参明学士/PlaAri (2005-09-08 12:06) 

ひろっぴ

まさに学士さんの仰る通りです。24時間販売するなら、サポートも24時間対応すべき!トラブル対応できない理由を社内体制のせいにされてもねぇ・・・。そりゃいろんな専門部署があるのは分かるけど、ユーザーにそれを感じさせたらダメでしょ。何かあったらココにかけろというから電話したのにテープの音声で対応され、えらい待たされた挙句に色んな部署に回されて、結局担当がいない・・・そんな企業結構あるんぢゃないですか!?
サービスを受ける側にとってはそれを供給する企業と一対一の関係だけど、企業にとっては大勢の中の一人・・・。しかし今はモノを言うユーザーが多いですから(それが当たり前だと思うが)、それらの声に面倒でもいちいち耳を傾けられない企業は早晩淘汰されるでしょう。
サポートを充実させないとリピータを確保出来ません。売ってしまえばそれでOK、というのでは全国渡り歩いて羽根布団やら浄水器やらを売ってるやつらと何ら変わりません。
by ひろっぴ (2005-09-11 06:46) 

参明学士/PlaAri

ひろっぴさん、そうなんですよ。サポートがまるで販促に追いついていないのは非常に良くないことだと思うんです。仰るように各部署の連携が非常に明瞭ではないことですね。それはつまりサポートをきちんとしようということが確立されていないということなんでしょうね。企業のプライオリティに疑問符を打たざるを得ません。
もしプライオリティに誤りがないと主張するならば、よほど自己(自社)分析力がないと見えますね。インターネットで販促すればどのようなトラブルが想定されて、どのような対応が必要とされるか分かるはずですからね…。
それにしても今回の対応には唖然としてしまいましたよ。
by 参明学士/PlaAri (2005-09-12 01:20) 

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