<勝負脳>の鍛え方(林成之) [本ココ!]
今回紹介するのは脳外科医である林成之氏の著書、『<勝負脳>の鍛え方』である。林氏はサッカー日本代表監督だったオシム氏が脳卒中で倒れた際に治療にあたったことで知られている。その後の動向が不安視されていた監督だったが、氏の治療の末に日常生活を送るレベルにまで回復しているようだ。
彼は脳外科医としての豊富な臨床体験をもとに、知られざる脳機能の本質について大胆に仮説を立てて持論展開する。もちろんそれは単なる推測を連ねたものではなく、医学的根拠を提示しながら脳が本来持っている力をいかに引き出すかという視点で本書は執筆されている。「勝負脳」というのは著者の造語であるが、社会そのものが「あらゆる分野の戦場」であることを考えるとき、人間の脳はその戦場を生き抜くための勝負を司る存在であるとも言える。脳に内在されていながら我々が取り出しえない「能力」を引き出して、あらゆる戦いを制していく力を「勝負脳」と定義すると言って外れてはいないだろう。
本書は著者としては簡便な表現を使って書いているとのことだが、少々専門用語が飛び交う構成になっており、読み疲れることもあるかもしれない。ともあれ手短に読み手としてのポイントを示してみる。
- 脳の病気から回復する人には「明るい性格の人」が多い
数多くの臨床での手術体験の結果、著者が得た確信である。明るい性格の人は脳内報酬物質「ドーパミン」が多く生成され、機能障害の改善に自ら寄与する。脳における仕組みについては本書を参照されたい。
- サイコサイバネティクス理論の応用
人間が成功するか否かは現象の受け取り方次第であり、個々の人間が抱く目的を達成するために必要なのは「成功イメージ」を抱くことが必要だとするサイコサイバネティクス理論を応用して、著者は次のようにそのまとめを記している。
- 目的と目標を明確にする。
- 目標達成の具体的な方法を明らかにして実行する。
- 目的を達成するまで、その実行を中止しない。
この場合の目標は「手段」と言い換えてもよいだろう。「頑張ります」ということほど曖昧なものはない。何を頑張るのかが定まらないから、結局「頑張れない」ことになる。これでは目的達成は程遠い。目的と目標(手段)を明確にしながら、手段の質的向上を図り、それを継続し続けることが必要だということだろう。
- 脳を最大限に活かす習慣を
- 性格を明るくして常に前向きな思考をする。
- 常にやる気をもって行動する。
- 何事も気持ちを込めて行う。
- 何に対しても勉強し、楽しむ気持ちを持つ。
- 感動と悔しさは生きているからこその宝物と考え、大切にする。
- 集中力を高める。
- 決断と実行を早くする。
最近の「脳ブーム」によって多種類の本やゲームなどが出てきている。それらは大なり小なりこのような表現で脳の活性化を提案するものが多いような印象を受ける。著者は「人間性を高めることで、運動神経がよくなり、運動の達人になることができる」とも主張する。個人的には2番や3番などは、意識して行わないとなかなか習慣にはならないように思うが、これらを踏まえた上で4番を実践すると良い意味での「勝ちパターン」が形成されるというのは頷けるところだ。
本書では主にスポーツを通して脳の使い方の地平を切り拓く提案をしているが、特段スポーツをしない人に対して、個人における体の正しい姿勢のあり方や、集団生活・競技における思考法についての考察など、我々の実生活に即したアドバイスが散見される。また、人間の「頭の良さ」が何に由来するかという説明も実に合理的で、実体に即したものと言えるだろう。脳の機能を知る以上に、「いかに使うか」を追求したい人にとって、本書は良き示唆を与えるものであろう。
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