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ビッグイシュー [人間社会]

今回はいつか書こうと思っていた記事を。

ホームレスの自立を目的とした雑誌というのがあって、『ビッグイシュー』と呼ぶ。ホームレスの問題と言うのは「人間」が相手であるだけに簡単なことではない。いかなる状況にあっても人間の尊厳は不変のものであるべきで、国家や人種、あるいは門地(家柄)や経済状況で揺さぶられない価値の一つということができよう。そういったものを人類は自然権と呼んで来た。(時代によって自然権の中身は異なってはくるのだが)

と、言葉で書くのは美しい理想だが、実際に我々が彼らと接する時に「何ができる」かというとほとんど無力に近い。何かをする義務があるわけではないし、考えようによっては「自らそう選択したのだから、やむを得ないだろう」と判断する人もいよう。何より近寄りがたいと言うのが本音でもあるだろう。
一方、やはり人間にとって「衣食住」への基本的欲求は捨てがたいものだし、ホームレスになって初めてそれを身に染みて知った人も多いのではないだろうか。過去の彼らの人生選択がいかようなものであったとしても、「ホームレス」であることは現実である。彼らがホームレスであることと、ホームレスを快くは思えない社会のシステムの両面が問題なのだ。公園での常駐を防ぐために長椅子の撤去などのネガティブな対抗策を打ち出さざるを得ないケースも耳に入ってくる。

本来これは行政府が主体的に取り組んでいかねば問題である。食事の提供や寝床の提供を行っている自治体もあると少しは聞こえてきているが、やはり「非生産性」を本質としているそれらの事業はいかにも維持しがたいのは容易に想像できる。金がかかって仕方がないのだ。また、血税をそれらに投入することへの抵抗もやはり少なからずあるわけだ。
ただ与えれば堕落し、与えずば社会問題化する。いわば堂々巡りの様相を呈していたとも言える。そして誰しも手を出しにくい問題なのだ。我々がどうすることも出来ないことを考えると実感できるであろう。そういう悪循環からの解放を目指したとも言えるのが、この『ビッグイシュー』なのかもしれない。

これはホームレスしか販売することはできない雑誌である。当然、店頭では入手不可能である。指定駅前で販売されていることがほとんどであろうか。この雑誌の目的は「ホームレスの仕事をつくり、自立を支援する」ことである。これは従前の行政府が行っていたような施策とは違って、ホームレス自身に積極性と社会性を付与するものである。幾つかのポイントを挙げてみたい。

  • 組織がクリアであること。(200円の販売で110円が本人の収入)
  • 目的がわかりやすく明瞭であること。(彼らの救済ではなく、仕事を与えるのが目的)
  • 買う側は寄付ではなく、直接販売員への利益(社会復帰)に繋がることを実感できること。
  • ホームレス自身に精神的積極性を期待することができること。
  • 全世界的な広がりを持っており、ホームレス対策への光明となること。
  • 社会としても雑誌販売の形式をとってもらうことで協力しやすいこと。
今、流行っているホワイトバンドというのをご存知の方も多いだろう。「ほっとけない貧しさ」を広く知ってもらうのを目的としているようであるが、一部ではその資金の流れが不明瞭ではないかとも囁かれている。それは貧困への直接の寄付ではないという事実とリンクされているようで、そうした手法自体がわかりにくさや疑念を呼んでしまったことは小さくない波紋を社会に投げかけた。
反面、この『ビッグイシュー』はわかりやすいのが特徴である。月二回発行、200円で販売され、一部売ると販売員に110円の収入となる。残り90円は仕入れである。『ビッグイシュー』は認定された写真付きIDカードをつけたホームレスしか販売することは出来ず、行動規範で自らを律している。その姿は目を背け、避けるものとしての存在でしかなかった彼らの姿ではない。己の努力次第で道を拓く可能性を知った姿である。 何につけても道を拓くのは積極性だ。それをこの雑誌はホームレスに与えようとしている。200円という売価も妥当な線からは外れてはいまい。肝心の雑誌の中身であるが、毎号ピックアップ人物に取材を試みているようだ。映画俳優やアーティストなどの著名人が表紙になっている。特集記事もクサミがなく、表現もわかりやすい。
ちなみに私が購入した号では「アジア、マンガ事情」という特集が組まれていた。記事も良質な部類であると感じた。タイ出身の漫画家や韓国をはじめとする東アジアでのマンガ文化の現状を解説している。ネット社会においてのマンガの可能性をアジア各国の現状から分析している点などは、なかなか面白かった。それからこうした主旨の雑誌であるから、ホームレスの社会復帰談などは一目に値する。『ビッグイシュー』の販売者が社会復帰した話も掲載されており、我々が微力ながら雑誌を買うことで直接その自立に協力できている実感もある。 今の社会はホームレスには冷たい。それはある意味で仕方のないことかもしれないが、何らかの手を打たねばならないのも変わらない事実であるはずだ。私はこの雑誌の理念に共感した。そして、この雑誌には「人の血」が通っているものと見えた。販売員にとっては私の思うところの数倍も感じることであろう。全員のホームレスが販売員になれるわけではないだろうし、根本的な解決を雑誌販売だけに求めることは当然出来ない。しかし、誰も手を付けようとしなかったこの分野に果敢に取り組んだ姿勢を評価することはできよう。私は誰も出来なかったことを実現していくことが社会を拓いていくものだと思う。ホームレスの社会復帰までの道のりは遠い。だが光がないわけではないことを知っておきたいのである。


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jasper

渋谷や恵比寿で売っている人がいます。ずっと何なんだかわからなかったのがやっと判りました。
知らないでいたので、なにか勧誘かな?とか、やはり販売員の服装などを見て素通りしてしまっていました。
今度、手にしてみようかな・・・。
by jasper (2005-11-01 08:22) 

kyao

以前、TVでこの雑誌のことを知りました。以来、大阪の梅田の駅前でこの雑誌が販売されているのをみると、購入するようになりました。この手の雑誌によくありがちな、主義主張ばかりが強いものではなく、どんな人でも手に取れるように・読みやすいようにと工夫されている雑誌だなあと思います。
とはいえ、明士さんが仰っているように、どうしてこういう事業のために地域・国家が手を貸さないのか、私には不思議です。マスコミに出演するたびに「ニートやホームレスの問題は深刻だ」と口を揃えるのに、です。結局、どこか他人事なんだろうなと思わざるを得ません。
自分たちの家族に、そう言う人がいれば、きっとこういう人たちの考え方も変わるのだろうなとは思いましたが。
by kyao (2005-11-01 09:06) 

銀鏡反応

センセーショナリズムを売り物にする雑誌が有る一方で、こうした社会からはじき出されがちな人々(この場合はホームレスの人々)を支援し、社会復帰を促す為の雑誌が彼等自身の手で売られていることに、出版社側の人間的な良心を感じている。ホームレスが自らの生きかたを見直し、明日に希望を見出し、社会復帰へと踏み出して行く、その手助けにこの雑誌はなっていると思う。
明士さんもこのエントリーで言及なされているが、金が掛かる、からといって地域行政や国家がホームレスやニートの支援に消極的でいては、いつまでたっても彼等が人間らしい生活ができにくくなるのは自明の理だ。
「ビッグイシュー」などがしている支援に加えて、地域・国家がもっとこうした人々の支援に積極的にならなくてはいかんと思った。
by 銀鏡反応 (2005-11-01 19:06) 

アキオ

いい運動ですね。

働かない、、じゃなくて、働けない、、って人も結構いると思いますし。

はじめて知ったので、、自分のためにもなりました
ありがとうございます。
by アキオ (2005-11-01 19:57) 

オリビア

こんばんは。
前に、NHKのドキュメンタリーでその雑誌をしりました。
その番組の内容は、ホームレスを再起できるよう支援する団体を民間人が作れることを伝え、でも実際は、助成金ほしさとか、「こんな活動してます」という名前欲しさに、利用者の事をあまり考えず、箱物だけをつくるということが多々あると紹介してました。
最後に、橋の上で、この「ビッグイシュー」を売り、なんとか生活を営もうとする、男性が映っていました。
その人は、どうしてそういう状況になったかはわからないけど、あきらめないで生きようとしていて、、がんばれって思いました。でも、現実はきびしいんでしょうね。。
by オリビア (2005-11-01 22:23) 

むが

前にテレビで取り上げられていたのを見ていたので
雑誌の名前にはピンと来なかったのですが、
ブログの内容から思い出しました。
さまざまな所でこういう事が取り上げられていても
他人事レベルで終わっている事が多いですよね。
ならば自分達で何とかせねばならない!
という事が世の中の常なんでしょうか。
by むが (2005-11-01 23:34) 

参明学士/PlaAri

★jasperさん、きっとその恵比寿や渋谷でお目にかかっている方は、この雑誌の販売員でしょうね。一生懸命さが伝わってきたら是非買ってみてあげてください。雑誌の内容も悪くないですよ^^

★kyaoさん、この雑誌を買われていたのですね。同じ考えの人がいるようで嬉しく思います^^一生懸命な販売員ほど何か協力したくなるものですよね。仰るように他人事なんだと思います。行政府にとっても。積極的な施策を行っているところもあるようですが、焼け石に水のような手法ではいけませんよね。もっと知恵を出していかないと。
一つの知恵の形がこのような雑誌販売として結実しているのかもしれません。郵政民営化ではありませんが、結局「官」からは本質的な良策を出すことが難しい。それはやはりどこまでいっても他人事だからなのでしょう。ビッグイシューのような民から訴え出る何かでなければ、光を見出すのは難しいのかもしれません。この雑誌の理念と目的がその光を発している点で評価したいと思っています。

★銀鏡反応さん、そうなんです。結局は「人の血が通った社会」を作っていくという必要があるんだと思うのです。官は「安定した収入の指標」などではなくて、国民に奉仕をしていというくスタンスをとるべきであるはずです。ホームレスだって好きでそれを続けているわけではないし、明日は我が身です。時には社会に破れ、敗北することもあるでしょう。極端に言って家を失うこともあるかもしれない。そんな時に行政府は何をしてくれるのか。ノーパンしゃぶしゃぶに使える国庫金があるなら、何故第2の人生のスタートの支援すらさせてやれないのか。そんな疑問が湧くのも当然ではないかと思いますね。

★アキオさん、もし駅頭で見かけたりしたら、販売員の一生懸命さを買ってあげて欲しいと思います。彼らの必死さは今の世では貴重な部類かもしれません。

★オリビアさん、ろくてないことを考える人間はいつの世にも存在していますね。介護保険も不正請求額が数十億円になると言われています。福祉も食い物にする世の中です。こうした慈善的な活動を通して目的としているのは金というのでは、残念極まりないことですね。そして情けないことです。
本当に手を差し伸べなくてはならない人が確実にいるのです。行政府も箱物に金だけ流すのではなくて、自らやり抜いて見せるほどの気力を持たねばならないと強く思いますね。ホームレスといえど頑張れる機会があることを光明としたいですね。

★むがさん、結局は「我関せず」という社会だということなんですよね。金がどれだけあって、経済大国だなんていっても、家のない人もたくさんいる。そしてそれを見てみぬフリをしている人も沢山いる。
問題がないわけがないのに無視。経済大国は人間には冷たいのでしょうか。人間に冷たいのなら何のための経済なのでしょうか。
経済は「経世済民・経国済民」という語の略語です。民を守っていくべきものとして規定されている本質を今は見失っているのかもしれませんね。
by 参明学士/PlaAri (2005-11-02 10:53) 

papa007_

まだ売っているシーン出合ったことがないですが、明士さんの買われた号はちょっと(多分、絶対)興味ありマス。
マンガの話は置いておいて、有意義な情報ありがとうございましたw
by papa007_ (2005-11-02 17:25) 

参明学士/PlaAri

★papaさん、東京のいくつかの駅頭では見かけることがあるかもしれません。毎号結構面白そうな特集が組まれていますよ^^
是非、手にとって見てくださいねー!
by 参明学士/PlaAri (2005-11-03 14:18) 

norinori

京都タワー前で私はよく見かけるのですが、まだ買ったことはありません。今度、買ってみようと思います。
ホワイトバンドよりもよほど、クリアですね。
by norinori (2005-11-04 00:15) 

いまさん

トラバさせていただきました。ビッグイシューをご紹介いただき、ありがとうございます。
by いまさん (2005-11-05 01:27) 

参明学士/PlaAri

★norinoriさん、そうですね。ホワイトバンドを買おうとすると、何か違うことがよぎってしまうのが残念ですよね。ビッグイシューはそれ自体が面白い雑誌ですから是非一度手にとって見てください^^

★いまさん、TBありがとうございます。早速拝見に伺いますねー。こうした雑誌の理念も実際も一つの光明であると思っています。
by 参明学士/PlaAri (2005-11-06 14:59) 

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