kyaoさんによる小説「燦めきの戦場」 [So-net blog]
So-net blogがサービスインしてもう6年目に入っています。その初日からこのblogはスタートしているわけですが、ネット上で実に色々な方々と知己になることができました。kyaoさんもその一人で、色々な分野にインタレストをお持ちの大切な友人です(現在はこちらのblogを運営されています)。交流を重ねていく間にkyaoさんは私や共通するネット上の友人をモチーフにして小説を書いて下さいました。
今回の記事はkyaoさんから了解を得て、その小説をこちらでも掲載させて頂くというものです。数篇に亘って書かれておりますので順次アップしていこうと思っています。なお、kyaoさんの小説はこちらのサイトにまとめられています。SFとモビルスーツモノの世界観を用いながら人間模様を綴っておられます。特段、そうした世界観に対する知識がない私でもとても楽しめる内容となっています。
kyaoさんにはこの場を借りて、心からの感謝の気持ちを捧げたいと思います。本当にありがとうございました。
それでは、本編をお楽しみください。
「スナフ! お前、今度は何やったんだ?!」
突然、頭上から降ってきた問いかけに、スナフ・ウェインライトは視線を巡らせた。
ニシャニシャと含み笑いを浮かべながら、メイシ・サメインが自らの愛機、プロヴィデンス改(通称:ブライト・スリー)のコクピットから降りてくる。低重力の元、自分の身体が反動で浮き上がらないように、器用につま先で着地する。
「キャオ、すっごく怒ってたぞ。ありゃあ尋常じゃなかったな」
「うへぇ…あいつが来たのかよ」彼の言葉にスナフは思い切り顔をしかめた。「この前、俺のハイザックのチューンを依頼したんだけどさ…そのことでA.E.から調整用の技師、こっちへ寄越すって連絡があったんだ。それがあいつかぁ…」
「単にそれくらいのことで、彼女が来るわけないだろう。あれでも一応、アナハイムのエリートだぞ」
「そうなんだけどさ…」と、スナフは浮かない顔をする。
ここは戦艦「ホワイトホース」のモビルスーツデッキ。
地球の衛星軌道上で補給を済ませた同艦は、ゆっくりとL5と呼ばれるラグランジュ・ポイントへ向かっていた。
ふたりが談笑していたそこへ「こら! スナフ! こっちに来い!」と、キャットウォークの向こうから、黄色い怒声が浴びせられた。
「あ、わりぃ…俺、気分悪くなったから、医療室へ行ってくる」と、その場を離れようとするスナフ。
「おおっとぉ」彼のノーマルスーツのバックパックを掴まえて「ほら、幼なじみのお出ましだ。再会を懐かしんでこい」メイシはスナフの身体をキャットウォークの方へ向けて放り出す。
「ぐわっ」
空中で身体の回転を止めようと苦戦するスナフを笑いながら「ガンバレよー」と捨てぜりふを残し、メイシはブリーフィングルームへ続く通路へと姿を消した。
「こらっ!」
気が付いたとき、スナフの額に正拳突きが突き刺さっていた。
額を抑えて、うーっとうずくまる彼の前に、A.E.の制服を着た女が立っていた。
「いきなり、何すんだ!」
額を抑えて立ち上がるスナフの前に、その女性は仁王立ちする。
「あんた、今、私から逃げようとしたでしょ」
「そ、そんなこと…」
「うるさい、口答えするな」
思わず動揺するスナフを、その女性、キャオ・ステインバーグは一言の元に黙らせた。
「あんたねえ…いい加減にしなさいよ」
小さくなっているスナフに、キャオはさらにたたみかける。
「あんたのハイザックにバイオセンサーを搭載しろっていう指令書が、私のところにいきなり来たのよ。どういう手を使ったのか知らないけど、どうしてそんな仕事増やすのよ。大体、ニュータイプでもないあなたが、バイオセンサーを使えるわけないでしょう?」
「んなこと、使ってみなきゃ分からない…」
「いーや、わかる」キャオはスナフの言葉を一刀両断に切り捨てる。
「幼なじみのあんたと、一体何年付き合ってると思ってるの? かくれんぼして、誰ひとり見つけたことのないあんたが、ニュータイプの訳、ないでしょう?!」
「そんな子供の頃の話…」
「うるさい」彼の言い訳をまたもキャオはぴしゃりとはねのけて「私はサイコフレームの材質チェックもやらされてるんですからね。これ以上私の仕事を増やすと、ただじゃおかないわよ。いいわね」
人差し指をスナフの胸に突き付けて、キャオは再びキャットウォークへと身体をゆっくり浮かばせる。
パンツ姿の彼女を見上げながら「どうしてあいつはこうも凶暴なんだ…女だったらスカートくらい履きやがれ…」
「聞こえたぞ! スナフ!」
キャオの声が聞こえたときには、すでに巨大なスパナがスナフの目の前に迫っていた。
「いたたたた…」
これからブリーフィングが始まろうと言うとき、スナフはマクシミリアン・ピースクラフトの手で、額に絆創膏を貼ってもらっていた。
「バカですねえ、スナフ。あなたがキャオに勝とうなんて100万年早いですよ」
笑いながら、マックは貼り終えた絆創膏を指でピンと弾いて「はい、終わり」
「いてぇ!」
額を押さえながらスナフはマックを睨んで「お前、もう少し丁寧に出来ないのか? 大体、本気でスパナ投げつける女が、どこにいるんだよ」
そこへ。
「まあ、自業自得ってな」
またも笑い顔を貼り付けたメイシが、飲み物のチューブを吸いながら流れてきた。
彼はマックの後ろのイスに取り付くと「お前、あのハイザックのことで、ずいぶん世話になってるんだろ? 頭、上がらないぞ、一生」
「そうですねー」とマックもメイシの言葉に頷きながら「そうでなくとも、僕たちの機体のどこかには彼女の手がかならず入ってる。そのおかげで、僕たちのMSは、カスタム機以上に使い易くなってるんだから、文句は言えないよ」
「ぐはー…」ふたりの言葉に、スナフが頭を抱えた。その様子に、メイシとマックが腹を抱えて笑う。
そのとき。
フィーン…フィーン…フィーン…。
突然、艦内に警報が鳴り響いた。ふざけていた3人の顔が瞬時に真顔になる。
「本艦はこれより進路を変更し、L5、コレヒドール暗礁空域へ向かいます」艦のオペレータ、チカリーナ・アレストの声が全艦に響き渡る。「進路変更にともない、新しい慣性モーメントが掛かります。浮遊物の無いよう、各員、チェックしてください。同時に本艦はデフコン2へと移行します。スナフ隊、発進準備願います」
「いくぞ」顎をしゃくるスナフ。
「おう」
「ええ」
メイシとマックのふたりが応える。
数秒を待たずに3人はハンガーデッキへと身を躍らせていた。
ハイザックのコクピットに身を沈めたスナフの耳に、チカリーナの声が飛び込んできた。
「隊長機、聞こえますか?」
「あいよ」
「これから向かう暗礁空域の僅か手前に、ハイネ・ヴェステンフルス機の識別信号があります」
「ハイネ? 誰だそりゃ? その近くに僚機の反応は?」
「識別信号はハイネ機のひとつだけです。交戦状態にあるようでもあり、援護の必要を認めますが?」
「了解した」
スナフはシートのベルトを締めながら「これよりスナフ小隊はコレヒドール暗礁空域へ向かう」
計器に火を入れると、目の前のモニターにMS射出用ハッチが開いていくのが見えた。メイシとマックのMSは、すでにカタパルトの上で射出体勢に入っている。
「メイシ、マック、いいか? ヤキン・ドゥーエのあとだからと気を抜くな。まだ敵はいるようだぞ」
「お前もなー」
「わかってますよ」
すでにミノフスキー粒子の濃度が高いのか、モニター上のふたりの顔がすでに歪み始めている。
「メイシ・サメイン。ブライト・スリー、出撃する!」
「マクシミリアン・ピースクラフト。ディープ・アームズ、行きます!」
ふたりのMSが出撃したのを見届けてから、スナフは愛機、ハイザック・カスタムをカタパルトに載せた。
モニターをゆっくりと見回して『今日は…宇宙(そら)が近い…』と、スナフはひとりごちた。それは新たに搭載されたバイオセンサーのせいかもしれなかったが、彼自身には分からなかった。
テストのつもりでハイザックのモノアイを巡らせると、キャットウォークにキャオの姿を見つけた。何やら彼女が手を動かしている。手話だった。
キョウ・カエッテ・キタラ・ゴハン・オゴレ!
思わず苦笑するも、スナフはモノアイを2回点滅させて、彼女にOKのサインを送る。
遙か彼方の宇宙。先に出撃した僚機の軌跡の向こうに、いくつもの閃光が煌めいていた。花火にも似た美しい光が煌めくたび、そこではきっと何人もの人間の命が失われているのだろうと言うことを、スナフはよく知っていた。
「スナフ・ウェインライト。ハイザック、出るぞ!」
カタパルトが咆哮し、次の瞬間、彼の身体は宇宙の真っ直中にあった。
彼を待ちかねたように、メイシとマックの機体が両側から近づいてくる。友の確かなプレッシャーを感じつつ、彼は愛機のペダルを踏み込んだ。
ふたつの銀の流星をともなって、金色の残照が暗黒の宇宙を疾駆する。
燦めきの戦場 完
うお…まさか、ここで自分の書いた三文小説とご対面するとは…いやはや、お恥ずかしい限りです。(^^;
再読してみると、今も昔も文章の下手さ加減はまったく変わってないですね。読み返すたびに、あっちこっち手を入れたくなります。いやはや、お恥ずかしい限りです。(^^;
いやはや、お恥ずかしい限りです(もう、ええっちゅーの)。(^^;
実は、このあとのお話を現在考察中のkyaoでした。(^^ゞ
by kyao (2010-07-07 11:58)
うちのkyaoさんサイトまで紹介していただきありがとうございます。
明士さんの所でkyaoさんの小説を掲載する事によって、もっと色んな人にkyaoさんの小説を読んで貰える機会が出来ると、kyaoさんファンとしては嬉しい限りです(^^)
by ありしあ (2010-07-10 16:15)
★kyaoさん…大変、返信が遅くなりました。申し訳ありません。
>再読してみると
いえいえ、私はとっても楽しかったですよ~。「ブライト・スリー」を命名した時のことなんかを思い出しながら読んでおりました。うれしいものです、ウェブの友人たちと共有してきた歴史を感じることは。kyaoさんには本当に感謝しています。続編も引き続き掲載させて頂きますね^^
★ありしあさん…遅くなってごめんなさい。何やらバタバタしてまして(苦笑)。
私も多くの人にkyaoさんの小説を目にしてもらいたいと思っています。ここで記事をアップすることによって機会が増えれば何よりです^^
by 参明学士 (2010-07-27 02:37)