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<ヒトiPS細胞>バイエル薬品先に作成 山中教授抜く [Meishi’s Science Watch]

 バイエル薬品(大阪市)神戸リサーチセンター(昨年12月に閉鎖)の研究チームが昨年春、京都大の山中伸弥教授らのチームより早く、ヒトの「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作成していたことが分かった。すでに特許出願も完了しているとみられる。バイエル薬品が特許を取得した場合、iPS細胞の医療への応用など実用化に大きな影響が出る可能性がある。 

 作成したのは、桜田一洋センター長と正木英樹研究員、石川哲也主席研究員(いずれも肩書は当時)らのチーム。同センターはバイエル薬品と日本シエーリングの経営統合に伴い昨年12月21日に閉鎖された。チームは同日、論文を投稿。今年1月31日付のオランダ科学誌「ステム・セル・リサーチ」電子版に掲載された。
 桜田氏らは、山中教授らが06年8月にマウスiPS細胞の作成を発表した直後から、ヒトでの研究を始めた。論文によると、新生児の皮膚細胞に、山中教授らと同じ四つの遺伝子を導入し、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)と極めてよく似た分化能力を持つ幹細胞を作った。遺伝子の導入過程で使うウイルスの一つは山中教授らと異なる種類を使うなど、複数の点で独自のアイデアがみられる。
 桜田氏はセンター閉鎖後、米国の大手投資会社が設立したベンチャー企業の科学担当最高責任者に就任した。毎日新聞の取材に対し桜田氏は「バイエルとの秘密保持契約があり、作成に成功した時期や特許出願については明らかにできない」と話しているが、「センター閉鎖のため、実質的な研究は昨年10月下旬に完了した」(桜田氏)ことや、iPS細胞の培養期間が約200日と論文に示されていることなどから、遅くとも昨年5月上旬には作成に成功したと推定される。一方、山中教授と米・ウィスコンシン大の各研究チームは昨年11月、ヒトiPS細胞作成を論文で発表した。山中教授らが成功したのは、過去の発言などから昨年7月ごろとみられる。
 桜田氏は「山中教授のマウスiPS細胞という独創的な成果が最初にあった。実用化には、高い技術を持つ日米の協調が不可欠で、良好な関係を築くために私も精いっぱい努力したい」と話している。
-毎日新聞-

 個人的にも注目度の高いiPS細胞に関する驚くべき発表である。実験成功という事実自体は非常に喜ばしいものだが、こうした「人類の技術」が仮に独占されるような仕組みを持ってしまった場合、特許保有者の利益以上に人類益を損失しかねない事態となる。研究開発には膨大な経費がかかったであろうからその回収は当然認めるとしても、技術を必要とする患者が多大な負担を強いられたりするのは許されることではない。
 iPS細胞に関する特許が人類に何をもたらすか。その動向を注視しなくてはならない。

 

Meishi’s Science Watch blog


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kyao

恥ずかしながら、iPSという名前は先日の新聞記事で初めて知りました。今まで万能細胞と言われていたES細胞とは別物なんですよね。科学の進歩ってすごいなあ。(^^)

こうした生体細胞の応用技術については、倫理的なものも数多くありますよね。
今回のそれについても、おそらくは今まで生物がその進化の過程において行ってきた偶発的要因(ウィルスによるRNA遺伝子の導入など)を人工的に行ってしまうことや、そのウィルスが外部に漏れるといった危険性についてなどなど…考察されるべき要因がたくさんあります。

こういう報道を目にするたび、科学による恩恵ばかりが大きくクローズアップされるだけでなく、さりとてその危険性ばかりがスキャンダラスに取り上げられることなく、まったく中立的な目で報道されなければいけないと言うばかりです。

P.S.こうした記事は明士さんの科学ブログに取り上げられるものと思っていました。(^^)
by kyao (2008-04-12 08:39) 

サァファイヤ

医療現場でどう活かされるか、ということが今後は問われることになるでしょうね。

>技術を必要とする患者が多大な負担を強いられたりするのは許されることではない。

そういうことなんです。技術は使われてこそ、意味があるわけで、必要としている人に多大な負担がかかって、その恩恵を受けられなければ、その技術自体は、ただの自己満足研究で終わりです。とはいえ、研究にも費用がかかったでしょうから、今後のバランスの取り方が重要でしょう。

>iPS細胞に関する特許が人類に何をもたらすか。その動向を注視しなくてはならない。

そうですね。「人の手」が入っている以上、コントロールしようと思えば、できてしまう怖さがありますね。
by サァファイヤ (2008-04-12 22:43) 

銀鏡反応

ヒトiPS細胞の特許に関する今回の問題は、仰るようにこれからの動向が如何なるものになるかを注意深く見守る必要があるのは勿論ですが、もうひとつの問題として、いわゆる万能細胞の場合と同じように、iPS細胞の場合においても、作成者側のほうに、これを「クローン人間」などの作成に使おうとするような、欲望を抑止するくらいの、真の“英知”があるか否かが問われていることもあるのだと思います。

山中教授ら京大チームを始めとする、世界のiPS細胞作成者たちが、何時までも、この“英知”を堅持してくれることを常に願いたいものです。




by 銀鏡反応 (2008-04-13 13:22) 

参明学士

★kyaoさん、iPS細胞はES細胞と比べて多くの点で歓迎されるべき仕組みを持っていると言えますね。
ウイルスでの誘導ですが、やはりこれは研究の余地があって今後完全に安全な媒介物で行えるのが望ましいのは言うまでもありませんよね。iPS細胞が特定の部位に分化していくための仕組みづくりの研究からは目が離せません。

>まったく中立的な目で報道されなければいけない

ブロードキャストするのが人間である以上は、ある程度の主観が入り込むのはしょうがないとしても、中立さを維持するために必要なのは「功罪」の両方をきちんと洞察して提供できるかどうかにかかっていると考えます。特にこうした最新の科学技術の功罪を的確に把握するためには、報道側の人間がそれなりにその分野に通じていなくてはならないということが基本的な考え方ではないでしょうか。

>科学ブログに取り上げられるものと思っていました。

仰るとおりです。実は科学ブログの方で先行して記事掲載をして、こちらではそれを後ほど転載することにしようかと考えて実行してみました。どうか、今後とも双方のブログに遊びに来ていただければと思います。本文記事にもリンクを貼ってありますので、よろしければご活用ください。

★サァファイアさん、こうした人間に直接かかわるような技術って、やはりすごく嘱望されているんですよね。だからこそ、あまりにもその技術を用いることが患者負担に繋がってしまうのでは意味がありません。その辺は政治の力も重要ですが、科学そのものの志向が「人間のため」という角度を失わないことが大切ですね。特にこの技術に関して相当革命的な技術でもありますから、その動向は今後も注目されます。

★銀鏡反応さん、ご指摘のことは、こうした技術に関する懸念の中でも大きな位置を占めますね。

>欲望を抑止するくらいの、真の“英知”があるか否かが問われていることもある

クローン人間の作成も確かに大問題です。そして何が問題なのかと言えば、こうした技術によって「生命が物質視される可能性を孕む」という危険性ではないでしょうか。
ひたすらに人間を手段化し、物質視してきた昨今の悪しき文明がもたらした悲劇は、人間そのものの精神を蝕み、もってその秩序立った社会を破壊しようとしています。細胞作成技術によって再生医療が確立し、あらゆる障害が治療され得る社会が到来すると仮定すると、その次には暴力や事故によって人間への傷害を与えたとしても、「細胞からまた壊れた臓器や肉体を作ればいい」という様な風潮が増長されないとも限らないわけです。
これは間違いなく人間を破壊する思想です。科学技術が人間の苦しみを抜く期待を背負う反面、そうした人間の怠惰や傲慢さを引き出してしまう契機にもなりかねないということを、我々はよく知っておかねばなりません。

優れた科学技術が最大限に人間に貢献するためにも、倫理や宗教や哲学といった人間精神に直接かかわる分野の開発がどうしても必要となってくるものと考えます。
by 参明学士 (2008-04-13 16:17) 

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