SSブログ

忘れ得ぬT先生 [明士の日々]

あれは小学校2年生の頃。

「こくご」の時間だったろうか。

とある昔話で天狗が村人に襲い掛かるシーン。

林を歩く村人に木の上から天狗が大声をかけて、持ち物をはごうとする内容だったと記憶する。

 

「ちょっとまてぃ!ここから先へは無事では通さん!うぁははは!」

 

そんなセリフだったろうか。

T先生はクラスのみんなにこのシーンを再現するように言った。

村人役はT先生。

そして天狗役を児童が担当することになった。

教室の右前方には給食を配置するための「給食台」があって、小学生くらいなら載っても壊れることのないほど丈夫なものだった。

T先生はその台を「木の上」に見立てて、順番に児童に天狗役をさせたのだ。

セリフはもちろん、「ちょっとまてぃ!ここから先へは無事では通さん!うぁははは!」である。

T先生扮する村人を思いっきり怖がらせるようにしなさいと言われた。

順番に児童が給食大の上にのり、例のセリフをT先生にぶつける。

でも、T先生は涼やかな顔をして、その木の上(給食台)を通り過ぎてしまうのだ。

あるクラスメートはあらん限りの大声を発するも、村人は「聞こえないよー」といったフリで通り過ぎる…。

何人が天狗役をやった後だろう。覚えてはいない。

そして、ついに、僕の出番。

僕の心臓は、はちきれそうになっていた。血が体を駆け巡るのがわかるほどに。

給食台に乗って、村人を待ち構える。

クラスの皆の視線が僕に集まっているのがわかる。

「ドキドキ…」

村人はさっきと同じように歩いてくる。

その瞬間…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイヤ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

給食台からさっそうと飛び降りて、村人の前に立ちふさがった。上靴も履いていないから靴下のまま。

 

 

そして村人に人差し指を突きたてながら、あのセリフを。

 

 

「ちょっとまてぃ!ここから先へは無事では通さん!うぁははは!」

 

 

 

村人T先生は初めて恐れを抱いた演技をした。それも相当大げさに。

村人は恐れをなして逆方向に逃げ出したのだ。

 

 

 

 

クラスは拍手喝采に。

僕の鼓動はまだ激しかった。

 

 

T先生はとっても喜んで、僕を褒めてくれた。

嬉しかった。

僕には秘策があったのだ。

この秘策を披露せずにはいられなかった。

「ドキドキ」はただ緊張していたからではなく、秘策がキマるかどうか、楽しみだったのだ。何と言えばいいのか、「男のドキドキ」だったのだ。

 

僕の後も何人か天狗役をやった。

全員2番煎じの僕の真似事だった。

小学2年生の僕の心が晴れやかだったのは言うまでもない。

 

T先生は体一杯で褒めてくれた。

あれからだろう、僕がちょっと皆とは違う考えを持っているかもしれないなと意識をし始めたのは。

褒めてくれた嬉しさと、クラスの拍手喝采と、ちょっぴりだけ頭を使うことの心地よさを終生忘れることはないだろう。

 

もうセピア色になりそうなほど昔の話。

 

今でも鮮明にあの感動を覚えている。

 

そして未だに他人が思いつかないことを考えたりすると「ドキドキ」が止まらない。

 

やってみたくなる。

 

これからの人生もやはりそうだろう。

 

僕はドキドキと共に生きている。

 

あのドキドキを忘れないように刻んでくれたT先生。

 

ありがとう。本当にありがとう。

 

 

あの日あの時、僕は僕になったのだと思っているのです。


nice!(9)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 9

コメント 8

kyao

教科書通りの答えでないといけない昨今。しかも生徒の個性をきちんと認めてくださる先生の存在というのは希有なものかも知れませんね。(^^)
「運」「巡り合わせ」という言葉でくくってしまうのは簡単ですが、そのおかげで今の自分がいる。そう思うととてもありがたい思いがしますし、とても嬉しいことですよね。(^^)
by kyao (2007-05-18 20:55) 

銀鏡反応

昔はこういう、生徒の個性を大いにキチンと認めて、思いっきり誉めてくれる先生がたくさんいた。そして誉められた方は生涯、そのことを忘れなかったものだった…。今は教育の現場に、そういう先生がいなくなりつつあるのが残念です。

今の明士さんの「原点」は、まさにT先生が明士さんの個性を認めて、誉めてくれたことにあったんですね。
by 銀鏡反応 (2007-05-18 22:35) 

りんたろ

みんながしないことをやってみる「ドキドキ」、成功したときの嬉しさ!。。。うん、「男のドキドキ」だけど「女のドキドキ」でもありますよ♪
早い時期に、T先生にめぐり合い、このような喜びを知ることができてよかったですね。
by りんたろ (2007-05-19 20:36) 

参明学士/PlaAri

★kyaoさん、教科書って模範回答の一つに過ぎないという側面もありますよね。本質的にはルールに従うことが正しいのではなくて、目的を的確に達成するために採るべき行動を考えさせるのが教育ではないでしょうか。T先生にはこのこと以外にもたくさんのことを教えて頂きました。大人が子供を心底認めるとき、子供の可能性は倍加するのかもしれませんね。

★銀鏡反応さん、本当に忘れられない出来事でした。鮮明に脳裏に刻まれていますね。あの時のビデオでもあれば見返してみたいです。

>原点

確かにそうかもしれません。何かを発案する時の感覚はあの日、あの時に磨かれたのかもしれません。あれがもし先生に非難されていたら今の私はなかったかもしれませんね…。

★りんたろさん、ドキドキには男女差なんてなかったかもしれませんね!確かに~!
T先生には感謝しております。今でも時々会いたいなと思います。この時のことを覚えているかどうかも聞いてみたいですね。
by 参明学士/PlaAri (2007-05-21 16:15) 

素人写真

この「ドキドキ」をたくさんもてる人は,毎日の人生がおもしろいと感じられる人なのではないでしょうか。
by 素人写真 (2007-05-23 22:20) 

参明学士/PlaAri

★飛行機雲さん、そうですね、私の日々が何かに飽き足らなくエキサイティングに感じられているのは、こうした「ドキドキ」が間断なく続いているからなのかもしれませんね。
by 参明学士/PlaAri (2007-05-24 09:56) 

サファイヤ

T先生のような人に出会えてラッキーでしたが、人と違うことを考える、という意識が芽生えそれを実行してきたのは、明士さんご自身の頭の良さからですね。
これからも、ドキドキを感じていてくださいね。
by サファイヤ (2007-05-26 01:38) 

参明学士/PlaAri

★サァファイアさん、私の場合、人生「ドキドキ」がなければ生き甲斐がないのに等しいかもしれません。今日も明日もドキドキを実行して行きたいと思います。それが社会の為にでもなるのなら、尚更「ドキドキ」です!
by 参明学士/PlaAri (2007-05-27 23:30) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。