エッセイ 「むこうから」 [人間社会]
缶コーヒーを片手に新書を読みながら。
視線の先には倒れた工事用のコーンがあった。
一方通行の道路はむこうから車を運んでくる。
朝日はまだ東を暖めていて、北を向いている私を照らそうとはしていなかった。
僕は寒さに震えながら缶コーヒーを握っていた。
この道路の奥には警察官の寮があるらしく、職務へ着くため数人がむこうから歩いてくる。
自転車に乗ってむこうからやってくる人。
バイクもちらほらむこうから走ってくる。
メガネの青年がむこうから歩いてくる。
無造作に倒れていたコーンを立て直した。
立てたコーンを道路の端に寄せた。
僕はあっけにとられた。
青年は変わらぬ足取りで僕の前を通り過ぎる。
僕にも見えていたはずのコーン。
警官にも見えていたはずのコーン。
あの青年に一本取られたな。
彼のうしろ姿を見送った。
「次は負けないぞ」と勝手に視線を送った。
そして僕はむこうに歩いていった。
朝日は僕を照らし始めていた。
いつもそんな人でありたいですけれど、なかなか難しいですよね。
by りんたろ (2007-04-23 21:11)
きっとその人は、普通に思ったことを普通にしただけなんでしょう。
でも、ときどき、その「普通」にハッとさせられることってありますよね。日々反省です。
by kyao (2007-04-24 09:02)
出来そうで出来ない行動ですね。。
by norinori27 (2007-04-25 09:12)
★りんたろさん、そうなんです。思ったよりもそうした行動を起こすことに慣れていないと、ついつい見過ごしてしまいますよね。
★kyaoさん、そうなんです。青年はごく普通に生活の中にそうした行動が身に付いているということなんだと思います。本当に「はっ」としましたよ。
★norinori27さん、仰るとおりですね。なかなか出来ることではありませんよね。極自然体での善意。頭で考えることとはちょっと違うのかもしれません。
by 参明学士/PlaAri (2007-04-27 13:04)
些細なことに気付く、って大切ですね、ほんと。
倒れた工事現場のコーンを立て直すなんて、なかなか出来ませんもんね。そのまま通り過ぎてしまうのが常ですよね。
by 銀鏡反応 (2007-04-27 20:34)
見えているようで、意識としては見えていないって、世の中には沢山ありますね。
私は、友人や知人とすれ違っても気づかないタチです。汗
コーンを起こすなんて、思いもしないだろうな・・・。
何気ないこの行動。なかなか出来ませんね。
by サファイヤ (2007-04-27 20:56)
★銀鏡反応さん、普通に暮らしていると些細なことに意識が向いていないのに気付きます。このコーンの件はまさにそれでした。まさに「はっと」した瞬間でした。
★サァファイアさん、そうですよね、目に映っていることと意識していることは違いますよね。明らかに私にはコーンは「映っている」だけでした。青年の行動に教えられた気が致します。
by 参明学士/PlaAri (2007-05-01 07:50)
普通とは、「自然」なこと、意識薄く起こせる行動、何も期待しない無徳の行為・・・ 豊かな普通を目指したいと思います。
できないことですが・・・
by (2007-05-01 23:18)
★木鶏さん、まだこの社会ではコーンを起こすような考え方は「良識」なんだと思うのです。けれども、人間はこれを「常識」へと昇華させねばならないと思います。毎日の私達の生き様がそれを決定付けるのかもしれませんね。
by 参明学士/PlaAri (2007-05-02 12:26)