はばたき [明士の日々]
師走の落ち着かない街の、とても混むのに、とても細い道を。
ちぎれたチラシがからっかぜに吹かれてその身を宙に投げていた。
そんな別段変わりない風景に視線を動かすこともなく、私は目的地へと歩を進める。
細い道を人々が行き交っていた。
元々皆兄弟だったなんて言うけれど、この人たちと肉親だったとは思えないほど他人だった。
右に左に他人をよけながら歩いた。
そんな私の前にハトがいた。
ハトはちぎれたチラシを加えていたが、それを口から離すと私を見上げた。
人の雑踏は相変わらずだった。
とても混むのに、とても細い道は、ハトにとっても騒がしかったのだろうか。
その目が何を言っているかはわからなかった。
私はハトを他人の如く通り過ぎようとした。
その時、ハトはほぼ直角に飛び立った。
「バサバサバサ」
私はちょうどその真下にいた。
羽根が強い風を私に叩きつけていた。
私の髪が羽根の風圧に揺れる。
その力強さに思わず息を飲んだ。
ハトはこうして飛んでいくのか。とても人間にあの風圧は出せない。
あの小さな体に風を生む力を常にはらんでいるのだ。
空を見上げた。
見上げてから私は立ち止まった。
もうハトは飛び去ってしまっていた。
あの風の感覚だけが残っている。
あの風を感じたのは雑踏の中で私一人。
画面の先では知りえない「はばたき」
明らかにチラシが舞うのとは違っていた。
私はハトの目線になって、雑踏の中を歩み始めていた。
最初は人間を見上げるように歩いていたハト。
最後は人間を見下げるように飛んだハト。
はばたきはその両方を与えてくれるのだろう。
あのはばたきの風はしばらく忘れられそうもない。
言葉を知らない動物たちは、言葉を使う私たち以上に自己主張をします。振り返ったときのネコの顔。遠くに駆けていこうとする犬の足音。
それらは多分、彼らからのメッセージであると言うこと以上に、誰から私たちに何かを届けようとしている、ジグソーパズルの断片なのだろうと私は思います。
明士さんの出会った鳩も、そうしたピースのひとつだったのかも知れません。
なら、そこからどんなメッセージを受け取ったのか、私はそれが知りたい…。
by kyao (2005-12-05 19:59)
情景、プロローグ、モノローグ・・・。
色んな言葉が浮かびます。
鳩にとっては人間なんて所詮他人。
だけど重要な何かがありそうな気もします。
by on_your_mark (2005-12-05 20:14)
考えさせられる事も、世の中の真理も
はたまた、幸せと言う物も、、
どれも、普段からそこいら中に転がってる物かもしれません。
そして、それらはきっと
「感じる人だけが感じる物」
であり続けるんでしょうね。
きっと、それもまた真理なのかな、と思いました。
by アキオ (2005-12-05 21:28)
雑踏の中のハトやスズメ、普段なら気にもかけないのですが、
ワタシも思いがけない力強さを感じる時があります。
強い風の中に耐える姿とか。
人間の世界に溶け込んでいるように思える彼らが
人間をどのように見ているのか...
駅のホームでたまに考え込んだりしています。
拙宅のハーボット「さん太」へのリンクカードありがとうございます!
よろしくお願いいたしますm(_ _)m
by momoyuki-msn04 (2005-12-05 22:40)
普段なら見逃してしまいそうな、何気ないことに気づくって、素敵だなと思います。
by サファイヤ (2005-12-06 00:36)
★kyaoさん、あの風を受けて私は「生きている」ということへの厳粛な雰囲気を感じました。そう、ハトも私も生きているのだと。
喜怒哀楽も精神活動も経済活動も全て「生きる」上に成立しているものです。生きているという認識がここ最近の社会では失われつつあるのではないでしょうか。
★switchさん、言葉でつづったハトとの出会いですが、心に浮かぶものがあったでしょうか。そうだとしたら嬉しく思います。あの「はばたき」は確かに力強かったのです。「ハッ」と我に帰るほどですね。動物としての種類を超えて、何か「生きている」ということの連帯を改めて知ったような。
★アキオさん、そこいらに転がっている事象に慣れてしまっていて、我々は感受性を削がれているのかもしれませんね。凶悪犯罪ですら「またか」、政治家の汚職も「またか」、官僚のイカサマも「またか」、というような本来感じうるべき事柄を見失っているような気がしてなりません。そんな不感症な自分ではありたくないですね。
今回の出来事は私にとってかなり大きな出来事となりそうです。
★ももゆきさん、人間って賢いようで忘却する生き物だなぁとも思うのです。いつも忘れているんですよね、大切なことを。思考が発展しても思想が発展しないがために、結局は高度な「縄張り争い」をしているということに変わりないのかなとも。それってやっぱり動物の域を抜けていないんですよね…。
ハーボットのリンク、ありがとうございました^^v
★サァファイアさん、見逃してしまいそうな不感症を今回の件で脱することが出来るきっかけになりそうだと感じました。うれしく思っています。もっともっと感じていかなくては。生きているのだから。
by 参明学士/PlaAri (2005-12-06 11:00)
人間は言語を得たかわりに何かを失ったといわれている。
その失った何かを、ハトなどの人間より「下等」とされている動物はいまだに持っている。
言語に頼らず(言語が無くとも)自己の意思を伝え、自己主張をする能力を。
そしてとてつもなく豊かなイマジネーションの力を。
人間でもネアンデルタール人の頃は言語能力が発達していなかったので、イマジネーションや言葉に頼らない意思伝達や自己主張をする能力を使い、互いに意思伝達や自己主張をしあっていたものと思われる。ホモサピエンスの時代になり、言語能力が格段に発達したので、言葉による意思伝達や自己主張が出来るようになり、それを元手に文字を生み出し、文明を作り上げてきたのだが、ネアンデルタール人の頃まで持っていた言語以前の自己意思伝達能力は失われてしまったという。それは、もしかすると、宇宙を貫く生命の法則もしくは叡智と繋がっていた能力なのかもしれない。
私たちが無駄な争いや、欲望のままに行動するのを止められないのは言語獲得と引き換えにこの能力を失ったことに原因があるのではないかとも思う。
by 銀鏡反応 (2005-12-06 18:28)